Capital Insight 編集部
NISAでは損益通算ができない仕組み
NISAは運用益が非課税となる税制優遇制度である一方、NISA口座で発生した損失は他の口座の利益と損益通算ができない制度設計となっています。
本記事では、損益通算ができない仕組みと、そのデメリットを踏まえた留意点を整理します。制度詳細は金融庁 NISA特設ページおよび国税庁 No.1463 株式等に係る譲渡所得等の課税の特例をご確認ください。
損益通算の仕組み
損益通算とは、投資で生じた利益と損失を相殺して課税対象を圧縮する仕組みです。
通常の課税口座(特定口座)の場合
特定口座Aで100万円の利益、特定口座Bで50万円の損失が生じた場合、損益通算により課税対象は100万円−50万円=50万円となります。税率約20.315%を適用すると、税額は約10万円の試算です。
損益通算が適用できない前提では、100万円の利益に対して約20万円の税負担となる計算のため、損失の相殺により約10万円の税負担が軽減される構造です。
NISA口座の場合
NISA口座で50万円の損失が生じ、特定口座で100万円の利益が生じたケースでは、NISA口座の損失は税務上「なかったもの」として扱われるため、損益通算はできません。特定口座の100万円の利益に対して約20万円が課税される計算です。
損益通算ができないことによる影響
ケース:NISA口座で50万円の含み損、特定口座で100万円の利益
| パターン | 課税対象額 | 税額(約20.315%) |
|---|---|---|
| 両方とも特定口座の場合 | 100万−50万=50万円 | 約10万円 |
| 損失がNISA口座の場合 | 100万円(損益通算不可) | 約20万円 |
差額は約10万円となる計算です。NISA口座で損失が生じると、同じ状況でも特定口座の場合と比較して税負担が大きくなる構造となります。
繰越控除も適用されない
通常の課税口座では、その年に損益通算しきれなかった損失を翌年以降3年間繰り越して、将来の利益と相殺できる繰越控除があります。
一方、NISA口座の損失にはこの繰越控除も適用されません。NISA口座の損失は税務上「存在しない」扱いです。
なぜNISAでは損益通算できないのか
NISAは利益に課税しない制度という位置づけです。利益が非課税となる反面、損失も税務上の救済措置の対象外となる設計です。非課税の恩恵と損益通算の恩恵は、制度上両立しない仕組みです。
英語圏の投資コミュニティでも「非課税制度ではtax loss harvesting(損失を利用した節税)は適用されない。税優遇口座では損失も税務上認識されない」と解説されています。これはNISA固有の問題ではなく、各国の非課税投資口座に共通する設計です。海外の制度前提は日本と異なる場合があるため、詳細は国内公式情報を参照してください。
損失リスクを抑える観点
損益通算が適用できない制度特性を踏まえると、NISA口座では損失の発生を抑える観点が重要となります。以下の5つの対策は、損失リスクを管理するための一般的な考え方として紹介されます。
対策1:長期投資を前提にする
過去のデータでは、全世界株式(オルカン等)に20年以上投資した場合、元本割れ期間が少なかったと報告されています(過去の実績であり、将来の運用成果を保証するものではありません)。短期の値動きではなく、10年・20年の運用スパンで保有継続する方針は、損失リスクを抑える観点の一つとされます。
NISAの非課税期間は無期限の設計のため、長期保有への制度的なインセンティブも組み込まれています。
対策2:分散投資
個別株への集中投資は、1社の業績悪化で大きな損失を被るリスクがあります。NISA口座ではインデックスファンド(オルカン、S&P500等)を中心に組み込むことで、数千銘柄に分散される設計となります。
成長投資枠で個別株を購入する場合も、1銘柄あたりの投資額を非課税保有限度額の10〜20%以下に抑える等、集中リスクを管理する観点があります。
対策3:ハイリスク商品の位置づけ
レバレッジ商品、新興国小型株、テーマ型ファンド等のボラティリティが高い商品は、NISA口座での保有は慎重な検討が求められます。これらは損失発生の可能性が相対的に高く、NISA口座で損失が確定した場合の損益通算が適用できないためです。
ハイリスク商品の保有を検討する場合、特定口座(課税口座)で投資する構成も選択肢となります。特定口座では損失が発生しても損益通算・繰越控除が適用可能です。
対策4:含み損の状態での売却判断
NISAでは含み損を抱えていても、売却しなければ損失は確定しません。相場下落時には積立投資を継続し、ドルコスト平均法の効果を取り込む方針も選択肢です。
ただし、企業の不正や業界の構造変化等、回復の見込みが限定的な個別銘柄については、損切りの判断が必要となる場合もあります。
対策5:NISA口座と特定口座の使い分け
すべての投資をNISA口座に集中するのではなく、リスク特性に応じて口座を使い分ける構成も紹介されます。
| 口座 | 組み込みやすい商品 | 観点 |
|---|---|---|
| NISA口座 | インデックスファンド、高配当大型株等 | 長期で値上がりが見込まれる商品の非課税メリットを取り込みやすい |
| 特定口座 | ハイリスク商品等 | 損失発生時に損益通算・繰越控除が適用可能 |
損失リスクと非課税メリットのバランス
NISAで50万円の損失が損益通算できなかった場合の不利益は、試算上最大約10万円(50万円×約20.315%)程度です。一方、NISAで500万円の利益が生じた場合の非課税メリットは約100万円規模(500万円×約20.315%)の試算となります。長期投資で利益が損失を上回る前提では、非課税メリットと損益通算不可のデメリットのトータルでNISAの活用価値を判断する観点があります。上記は前提条件に基づく試算であり、実際の運用結果を保証するものではありません。
NISAで含み損を抱えている場合の対応
含み損の段階
インデックスファンドの含み損は、過去のデータでは時間の経過とともに回復するケースが多かったと報告されています。過去の金融危機(リーマンショック、コロナショック等)でも、数年程度で下落前の水準に戻った例があります(将来の回復を保証するものではありません)。売却して損失を確定させるかは、運用方針・保有期間の見通し等を踏まえた個別判断となります。
損失を確定させた場合
含み損のまま売却した場合でも、取得価額分の非課税枠は翌年以降に復活する仕組みです。例えば100万円で購入した商品が80万円で売却された場合、100万円分の枠が翌年以降に復活し、復活した枠で新たな投資が可能です。
まとめ
- NISA口座の損失は税務上「なかったもの」扱い:損益通算も繰越控除も適用されない(非課税制度の設計)
- 損失リスクを抑える観点:長期投資・分散投資・ハイリスク商品の慎重な取り扱いが一般的な考え方
- NISA口座と特定口座の使い分け:商品のリスク特性に応じた口座選択の観点
- 含み損での売却判断:売却しなければ損失は確定しない。運用方針と見通しを踏まえた判断
- 非課税メリットとのバランス:長期投資で利益が出るケースでは、非課税メリットが損益通算不可のデメリットを上回る試算となることが多い(将来の実績を保証するものではない)
最終的な投資判断はご自身のリスク許容度・投資方針・家計状況を踏まえてご判断ください。
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免責事項・出典
本記事は情報提供を目的として作成されたものであり、特定の金融商品の購入・売却を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。過去のリターンや利回りは将来の運用成果を保証するものではなく、金融商品の価値は市場環境により変動します。当メディアは金融商品取引業者ではなく、個別の投資助言は提供しておりません。税制・法令・各金融商品の仕様は変更される可能性があるため、最新情報は金融機関・金融庁等の公式サイトをご確認ください。
主な出典(最終確認: 2026年4月):金融庁 NISA特設ページ、国税庁 No.1463 株式等に係る譲渡所得等の課税の特例。